大阪市内で一棟ビルや一棟マンションを所有していると、20年、30年以上にわたって同じ借主との賃貸借が続き、賃料などの契約条件を長期間見直していないことがあります。
一方、近年の大阪では地価やオフィス賃料が上昇しており、契約当時とは不動産を取り巻く環境が変化しています。また、大阪市には築年数の経過したオフィスビルも多く、古い物件では賃料だけでなく、耐震性や設備更新、大規模修繕など「建物そのものを今後どうするか」も問題になります。
そのため、長期間続いている賃貸借では、賃料を見直すだけでなく、現在の建物で賃貸を続けるのか、改修・建替え・売却を検討するのか、場合によっては既存の借主への立退きを求めるのかまで、物件の将来を見据えて考える必要があります。
この記事では、大阪で古い一棟ビルなどを所有するオーナーに向けて、2026年の不動産市場を踏まえ、賃料増額、改修、建替え、売却、立退きまで含めた賃貸借契約の見直し方を解説します。
大阪でも地価・オフィス賃料・店舗賃料が上昇している
古い賃貸借契約を見直す際には、契約を締結した当時と現在で、不動産を取り巻く環境がどの程度変化しているかを確認する必要があります。
大阪では近年、地価やオフィス賃料などに上昇がみられます。
2026年の大阪府の地価は住宅地2.8%、商業地8.5%上昇
大阪府が公表した2026年地価公示によると、2026年1月1日時点の大阪府の住宅地の平均変動率は前年比2.8%の上昇となり、5年連続で上昇しました。商業地は前年比8.5%上昇し、4年連続の上昇となっています。
【参考】
大阪府「令和8年地価公示の結果について」https://www.pref.osaka.lg.jp/hodo/fumin/o130150/prs_50440.html/
大阪のオフィス賃料も上昇が続いている
CBREの調査によると、2026年第2四半期の大阪オフィス市場では、すべてのグレードで賃料が8四半期連続して上昇し、過去最高値を更新しました。グレードAの想定成約賃料も前期比4.1%上昇し、オールグレードの空室率は1.8%となっています。
【参考】
CBRE「Japan Office MarketView Q2 2026」
https://www.cbre.co.jp/en/insights/figures/japan-office-marketview-q2-2026/
CBRE「大阪-市場動向と賃料相場 2026年3月期」
https://www.cbre.co.jp/properties/column/office/market/market_trend-3-2026-index/market_trend-3-2026-osaka/
市場が上昇しても、既存賃料を同じ割合で増額できるわけではない
地価や市場賃料の上昇率と、既存の賃貸借契約における賃料増額率は同じではありません。
借地借家法第32条では、土地・建物に対する租税その他の負担の増減、土地・建物価格その他の経済事情の変動、近傍同種の建物の賃料などによって建物賃料が不相当となった場合に、将来に向かって賃料の増減を請求できるとされています。
実際の賃料増額では、現在の賃料を決めた時期や契約の経緯、従前の賃料改定の状況なども確認する必要があります。
したがって、「大阪の商業地が8.5%上昇したから賃料も8.5%上げられる」という関係にはありません。ただし、20年、30年と賃料をほとんど見直していないのであれば、現在の賃料が相当かを改めて検討する契機にはなります。
2 大阪には築年数の経過したオフィスビルが相当数存在する
大阪では、賃貸借契約だけでなく、建物そのものの老朽化も無視できません。
ザイマックス不動産総合研究所の「オフィスピラミッド2026」によると、2026年末時点の大阪市のオフィスストックは平均築年数36.8年、中小規模ビルでは37.4年です。中小規模ビルの賃貸面積のうち築20年以上が89%を占め、旧耐震基準のビルも29%存在します。
築40年、50年と経過したビルでは、設備更新や大規模修繕の必要性に加え、長年の契約更新によって、テナントごとに契約条件や賃料水準が異なっていることもあります。
こうした一棟ビルでは、賃料だけを見直すのではなく、建物を今後どのように保有・活用するのかという視点から、賃貸借契約と建物の問題を一体として検討する時期に来ているといえます。
【参考】
ザイマックス不動産総合研究所「オフィスピラミッド2026」
https://soken.xymax.co.jp/survey/regularsurvey/stockpyramid/2026/index.html
古い賃貸借契約を見直すときの3つの選択肢
長期間続いている賃貸借契約では、「賃料を上げるか、そのままにするか」だけでなく、建物自体を今後どうするかも含めて方針を決める必要があります。
現在の条件で賃貸を続ける
現在の賃料や建物の状態に大きな問題がなければ、現在の契約を継続することも選択肢です。ただし、周辺賃料や維持管理費、今後必要となる修繕などは確認しておくべきです。
賃料を見直す
長期間賃料を据え置き、現在の周辺賃料や経済事情との乖離が生じている場合には、賃料増額を検討します。
一棟ビルでは、テナントごとに契約開始時期、契約期間、普通借家・定期借家の別、賃料、過去の改定時期などを整理すると、物件全体の状況を把握しやすくなります。
協議で合意できない場合には、原則として調停を経て、必要に応じて訴訟を検討することになります。
賃料増額請求の進め方、増額による経済的効果、弁護士への依頼を検討する規模感などについては、弁護士法人朝日中央綜合法律事務所コーポレートサイトの「賃料増額は弁護士に相談するべき?費用対効果と依頼を検討したいケースを解説」で詳しく解説しています。
改修・建替え・売却など、建物の活用方法を見直す
築年数が経過し、耐震改修や大規模修繕にまとまった費用が必要になる場合には、現在の建物を改修して使い続けるのか、建替えや売却を選ぶのかを比較します。
建替えや空室化したうえでの売却を選択する場合には、既存テナントとの賃貸借をどのように終了させるかという立退きの問題も検討課題です。
築45年以上のビルでは耐震基準や建物の状態も確認する
1981年の新耐震基準導入前後に建築されたビルでは、築年数だけで判断せず、建築確認を受けた時期などから適用された耐震基準を確認する必要があります。
旧耐震基準の可能性がある場合は、耐震性を確認する
旧耐震基準の可能性がある建物では、耐震診断・耐震改修の有無やその内容、過去の大規模修繕、現在の建物の状態、今後必要となる設備更新や改修費などを確認します。
大阪市は2026年3月に改定した「大阪市耐震改修促進計画」で、市内には依然として耐震性が不十分な住宅・建築物が残されているとしています。また、上町断層帯地震や南海トラフ巨大地震などを具体的なリスクとして想定し、建築物の耐震化を促しています。
耐震改修して使い続けるか、建て替えるかを比較する
旧耐震基準の建物であっても、耐震補強や設備更新を行って使い続ける選択肢があります。
耐震補強に多額の費用がかかり、空調、給排水、エレベーターなどの設備更新も重なるのであれば、改修後の使用期間や収益性と、建替えに必要な費用・期間を比較します。建替えの選択では立退き問題も生じるため、各テナントの契約内容や建替えまでに必要となる期間も判断材料となります。
賃料増額を拒否されたら立退きを求められる?
賃料増額を求めたところ借主に拒否された場合、「それなら退去してもらいたい」と考えるオーナーもいるでしょう。
しかし、賃料増額に応じないという理由だけで、直ちに借主へ立退きを求められるわけではありません。
賃料増額請求と、賃貸借契約を終了させて建物の立退きを求めることは、法律上別の問題です。
賃料について争いがあるのであれば、借地借家法第32条に基づく賃料増額請求として解決を図ります。
普通借家契約について貸主側から更新を拒絶したり、解約を申し入れたりする場合には、借地借家法第28条の「正当事由」が問題になります。
ただし、賃料増額そのものではなく、建替え・売却・土地の有効活用を目的としているのであれば、最初から物件全体の将来方針を整理した方がよい場合があります。
古いビルを建て替えるために立退きを求められる?
普通借家契約では、契約期間が満了しただけで、貸主が当然に契約を終了させられるわけではありません。
借地借家法第28条では、貸主による更新拒絶や解約申入れについて、貸主・借主双方が建物を使用する必要性、賃貸借の従前の経過、建物の利用状況や現況、立退料などの財産上の給付を考慮して、「正当事由」があるかを判断します。
したがって、「建物が古い」「建て替えたい」という理由だけで立退きが認められるわけではありません。
築年数だけでなく、耐震診断などの客観的資料が重要
老朽化した建物の立退きでは、築年数だけでなく、建物の現況や建替えの必要性が重要になります。
耐震性や老朽化を理由とするのであれば、耐震診断結果、建物調査報告書、修繕・耐震補強の見積書など、建物の状態を示す客観的な資料が判断材料となります。
実際、当サイトで紹介している裁判例でも、耐震診断の結果などが考慮されたものがある一方、築年数が相当程度経過していても、耐震診断等がないことなどから老朽化が十分に認められなかったものがあります。
建替えの必要性と借主側の事情を整理する
建替えを理由として立退きを求める場合には、「いずれ建て替えたい」という希望だけでなく、耐震改修と建替えの費用比較や建替え後の利用計画などを整理しておくことも重要です。
店舗や事業所では、借主側にも、現在の場所で営業を続ける必要性や移転に伴う費用、休業などの事情があります。
そ のため、正当事由を判断する際には、貸主側の建替えの必要性だけでなく、借主側がその場所を使用する事情もあわせて検討します。
立退料を払えば必ず立退きを求められるわけではない
借地借家法第28条では、貸主が申し出た立退料などの財産上の給付も、正当事由を判断する事情として考慮されます。
ただし、立退料を支払えば当然に立退きが認められるわけではありません。貸主側の建替えの必要性、建物の状態、借主側の事情などを踏まえ、正当事由を補完する事情として考慮されます。
古いビルの建替えを検討する場合には、建築費だけでなく、立退料や弁護士費用、立退き完了までの期間なども含めて事業計画を検討する必要があります。
詳しい法律上の考え方や裁判例については、当サイトの「建物立退きマニュアル」もご参照ください。
大阪府内で耐震性の問題からテナントビルを建て替えた立退き事例
当サイトの解決事例には、大阪府内の再開発が盛んなエリアに所在する築40年以上の5階建てテナントビルについて、建替えのために7軒のテナントの立退きを求めた事例「再開発が盛んなエリアのテナントビルの建替えのために既存の全テナントの立退きを実現したケース」があります。
各テナントとの契約開始時期は異なり、最も古いものは約40年前から続いていました。
この事例では、建物について耐震診断を実施した結果、耐震性に問題があることが判明しました。
そこで、老朽化した建物に多額の耐震補強工事を行うよりも、新しい10階建てテナントビルへ建て替える方が合理的であることなどを主張して、各テナントとの交渉を進めました。
7軒のテナントのうち6軒には代理人弁護士が就き、1軒については任意交渉だけでは合意に至らず調停も利用しましたが、最終的には全テナントの立退きが完了しています。
一棟ビルの建替えでは、複数テナントとの交渉を建物解体や新築工事の予定から逆算して進める必要があります。
立退きは必ずしも貸主と借主の対立だけで進めるものではない
建替えに伴う立退きは、必ずしも訴訟によって解決するものではなく、実務上は任意交渉によって立退き条件を調整することもあります。
特に複数のテナントが入居する一棟ビルでは、近隣で営業を続けたい、移転まで一定の期間が必要、内装・設備の移転費用がかかるなど、借主ごとに事情が異なります。そのため、すべての借主に同じ条件を提示するのではなく、それぞれの事情を確認しながら交渉することになります。
当サイトの解決事例でも、借主の希望を聞いて代替物件を探したり、営業上の事情を踏まえて移転条件を調整したりすることで、合意による立退きに至ったケースがあります。
もちろん、任意交渉で合意できず、調停や訴訟が必要になることもあります。
立退きは、単に借主を退去させるためのものではありません。貸主側の建替え等の必要性と、借主が新しい生活・営業環境へ移るために必要な条件を整理することが、双方が納得できる解決に繋がります。
大阪で賃料増額・改修・建替え・立退きをまとめて検討した方がよいケース
次のような物件では、賃料だけ、耐震だけ、立退きだけを個別に検討するのではなく、不動産全体の方針を整理する意味が大きくなります。
- 築40年、50年以上が経過し、旧耐震基準で建築された可能性がある一棟ビル
- 耐震診断で問題を指摘されている、または大規模修繕・設備更新に多額の費用が見込まれるビル
- 20年、30年以上賃料をほとんど見直していない物件
- 複数テナントが入居し、契約条件や更新時期がばらばらになっている物件
- 現在の建物では容積率等を十分に活用できておらず、建替えによる有効活用を検討している物件
- 周辺で再開発や新築オフィスの供給が進み、建物の競争力を見直したい物件
- 相続や事業承継を前に、建替え・売却を含めて今後の保有方針を整理したい物件
こうした物件では、「この建物をあと何年使うのか」を先に決め、その方針から賃料増額、改修、建替え、売却、立退きの優先順位を考える方が、合理的な判断につながります。
賃料増額・建替え・立退き・売却で迷ったら、どこに相談すればよい?
長年所有してきた一棟ビルでは、日常的な賃貸管理には慣れていても、築年数が経過した建物を今後どうするかという判断は、何度も経験するものではありません。
耐震改修をして使い続けるのか、建て替えるのか、売却するのか。長年据え置いてきた賃料を見直すのか。建替えを選ぶのであれば、既存テナントとの契約をどう整理するのか。
こうした問題は、建築、賃貸借、不動産評価、売買など複数の分野にまたがるため、相談内容によって適切な専門家も異なります。
建物の耐震性や劣化状況については建築士や耐震診断の専門家、建替え計画や工事費については設計会社・建設会社、売却価格や売却方法については不動産会社や不動産鑑定士などが相談先となります。
一方で、
「長年据え置いてきた賃料を増額したい」
「賃料増額を先に進めるべきか、数年後の建替えを優先すべきか迷っている」
「建替えたいが、複数のテナントが入居している」
「立退きが可能なのか、どの程度の期間や費用を見込む必要があるのか知りたい」
「賃貸中のまま売却するか、立退き後に売却するか検討している」
といった問題では、賃貸借契約と将来の不動産活用を切り離して考えることができません。
賃料増額について借主との協議がまとまらなければ、原則として調停を経て、必要に応じて訴訟を検討することになります。建替えのために普通借家契約を終了させる場合には、借地借家法上の正当事由が問題となり、任意交渉で解決できなければ法的手続を検討することになります。
そのため、まだ「賃料増額にするか、建替えにするか、立退きを進めるか、売却するか」が決まっていない段階でも、弁護士に相談することは選択肢の一つです。
特に一棟ビルや複数テナントが入居する物件では、個々の契約内容を確認したうえで、賃料増額を先行させるのか、建替えを見据えて契約関係を整理するのかによって、その後の進め方が変わります。
弁護士法人朝日中央綜合法律事務所では、賃料増額や立退きを個別に考えるだけでなく、現在の賃貸借契約、建物の状況、オーナーが考えている将来の活用方針を踏まえ、法的な観点から取り得る選択肢を整理します。
大阪で一棟ビル、一棟マンション、店舗・事業所などを所有し、「このまま貸し続けるのか」「賃料を見直すのか」「建替えや売却まで検討するのか」と迷っている場合には、立退き問題の解決実績が豊富な弁護士法人朝日中央綜合法律事務所にご相談ください。
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