貸店舗の入居者につき裁判上の和解により明渡完了したケース

※ 弁護士の守秘義務に関する日弁連規程第4条第4号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

ケースの概要

(1)建物の状況
 都内有数の繁華街から程近い、ファッションブランドの店舗が多く建ち並ぶ大通り沿いにある築50年以上の木造2階建店舗用ビルで、借主は、1階部分約80㎡(3室分)をアパレルショップの店舗として利用していました。

(2)建物賃貸借契約に関する事項
 対象建物は2階建で各階に4室の貸室があり、各テナントの入居時期はまちまちでした。貸主は、建物の老朽化を理由に数年前から建替えを計画し、契約期間の満了時に契約の更新をせず賃借人に退去を求めていたため、1階の1店舗を除き全室の借主は退去していました。

 最後の借主となった店舗とは3室分の賃貸借契約を締結していたため、契約の始期や契約期間はまちまちでしたが、約30年前に当初の契約を締結して以降、いずれの契約も複数回の更新を経て、直近の契約期間は3年間でした。契約期間満了の約半年前に更新拒絶の通知をしました。

課題、争点

(1)解除原因または正当事由
 解除原因は存在せず、建物老朽化、有効活用を正当事由とする明渡しです。

(2)立退料について
 交渉段階では、借主から賃料の約5年分にも相当する約6000万円もの過大な立退料(営業補償を含む)の支払いを求められ、金額の交渉をする余地すらなかったため、訴訟提起を行いました。最終的には和解成立の日から1か月以内の早期明渡しを前提に約1900万円の解決金を支払うという内容で和解が成立しました。

交渉、解決のポイント

 借主は全国的な知名度を有するファッションブランドを展開するアパレルメーカーでしたが、対象建物が建っている大通りの名称自体にブランド的価値があり、そこから店舗を移転することによる経済的損失が著しいことを理由に、当方から提案した近隣の同程度の規模の物件への移転に一切応じようとせず、不当に高額な立退料の支払いを求めてきたため、任意交渉を早々に切り上げ訴訟を提起することとしました。

 裁判では借主は一貫して立退き自体を拒んでいましたが、当方が建物の老朽化、特に築50年以上が経過しており、現物件を維持管理するために多額の修繕費がかかっていること、耐震基準を満たしておらず建物倒壊の危険性が高いこと、耐震補強工事に多額の費用がかかる反面、建替えにより収益性が大幅に向上すること等を、専門家の耐震診断結果報告書や工事計画書等を提出して主張立証したことで、裁判官から借主に対し、相当額の立退料の受取りを前提に明渡しに応じるよう勧告がなされました。
 
 そのうえで、主に立退料の額と明渡しの時期を巡って和解協議を行うこととなりましたが、当方は不動産鑑定書等により合理的な立退料や営業補償の算定方法を主張立証し、判決も辞さないとの姿勢で和解協議に臨んだ結果、最終的には、借主から当初提示された額の3分の1を下回る約1900万円の解決金を支払うことと引換えに、和解成立の日から1か月以内の早期明渡しを実現することに成功しました。

解決後の姿、解決により貸し主が享受した利益

 貸主は、当初より明渡後の土地上に店舗兼住居用マンションの建築を計画しており、明渡完了後直ちに対象建物を取り壊し新物件の建築に向けた準備を進めることが可能となりました。

担当弁護士のひとこと

 築50年以上の木造建物でかなりの老朽化が進み、かつ耐震性も不十分な物件であったとはいえ、その事由のみで正当事由を充足させることは困難な事案であったことに加え、借主は、ファッション通りからの店舗の移転自体に強い難色を示していました。
 そのため、仮に裁判で和解協議が決裂し判決となった場合に向け、訴訟提起前から耐震診断結果報告書や工事費用の見積書等の客観的な証拠の準備を計画的に進め、それが結果的に裁判所からの和解勧告につながったものと感じています。

 また、すでに借主以外は全員退去しており、2年近くの間他のテナントは空室となり賃料収入はなくなっていたため、裁判を長引かせることなく早期に解決することが求められていました。
 結果として、任意交渉で安易に法外な立退料の支払いに応じることなく、かつ裁判を通じて早期の明渡しを実現できたことは大きな意義があると思われます。



弁護士法人
朝日中央綜合法律事務所への
ご相談受付はこちら
お電話でのご相談受付
0120-829-073
受付時間 9:00~19:00(土日祝休)
0120-829-073
ご相談受付