店舗兼住居用マンションの入居者につき裁判上の和解により明渡完了したケース

※ 弁護士の守秘義務に関する日弁連規程第4条第4号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

ケースの概要

(1)建物の状況
 対象建物は、横浜市所在の鉄筋コンクリート造の4階建店舗兼住居用マンションで、借主は、1階部分約90㎡を小売業の店舗として利用していました。また、対象建物は、観光名所や駅からも程近い大通りに面しており、周辺には、住居用マンションが多く立ち並んでいました。

(2)建物賃貸借契約に関する事項
 1階に店舗が5店舗、2階から4階に住居が全21戸あり、各店舗や住居の入居時期はまちまちでした。貸主は、建物の老朽化を理由に数年前から建替えを計画し、契約期間の満了時に契約の更新をせず賃借人に退去を求めていたため、1階の1店舗を除き全室の借主は退去していました。
 最後の借主となった店舗との当初の契約締結は約10年前、その後複数回の更新を経て、直近の契約期間は3年間でした。契約期間満了の約半年前に更新拒絶の通知をしました。

課題、争点

(1)解除原因または正当事由
 解除原因は存在せず、建物老朽化、有効活用を正当事由とする明渡しです。

(2)立退料について
 交渉段階では、借主から賃料の数十年分にも相当する約8000万円もの過大な立退料(営業補償を含む)の支払いを求められ、金額の交渉をする余地すらなかったため、訴訟提起を行いました。最終的には和解成立の日から2か月以内の早期明渡しを前提に約1500万円の解決金を支払うという内容で和解が成立しました。

交渉、解決のポイント

 借主は関東圏に複数の店舗を有する小売業者でしたが、商圏が変わることを理由に、当方から提案した近隣の同種物件への移転に一切応じようとせず、不当に高額な立退料の支払いを求めてきたため、早期の段階から任意交渉を切り上げ訴訟を提起することとしました。

 裁判では借主は一貫して立退き自体を拒んでいましたが、当方が建物の老朽化、特に築50年以上が経過しており、現物件を維持管理するためには賃料収入を大幅に上回る多額の漏水工事費用や配管交換費用等がかかること、建替えにより収益性が大幅に向上すること等を、専門家の報告書や工事計画書等の客観的な証拠を積み重ねて主張立証したことで、裁判官から借主に対し、相当額の立退料の受取りを前提に明渡しに応じるよう勧告がなされました。

 そのうえで、主に立退料の額と明渡しの時期を巡って和解協議を行うこととなりましたが、当方は近隣の移転候補先の物件を積極的に提案するとともに、合理的な立退料や営業補償の算定方法を主張立証し、判決も辞さないとの姿勢で和解協議に臨んだ結果、最終的には、約1500万円の解決金を支払うことと引換えに、和解成立の日から2か月以内の早期明渡しを実現することに成功しました。

解決後の姿、解決により貸し主が享受した利益

 貸主は、当初より明渡後の土地上に10階建て店舗兼住居用マンションの建築を計画しており、和解成立後直ちに新物件の建築に向けた準備を進めることが可能となりました。

担当弁護士のひとこと

 かなりの老朽化が進んだ物件であったとはいえ、その事由のみで正当事由を充足させることは困難な事案であったため、借主は、法外な立退料の要求が通らず判決になったとしても一定額の立退料は得られるという公算があったと思われます。

 他方、すでに借主以外は全員退去しており、賃料収入はほぼなくなっていたため、貸主の立場からはできるだけ早期に解決し、新物件の建築を進めることの方が経済的に有利な状況でした。その意味で、安易に法外な立退料の支払いに応じることなく、かつ早期の明渡しを実現できたことは大きな意義があると思われます。



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