市内中心部の老朽化した古民家風居酒屋の立退きを実現したケース

※ 弁護士の守秘義務に関する日弁連規程第4条第4号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

ケースの概要

(1)建物の状況
 市内中心部の最寄り駅から徒歩2分の商業地に所在する建築後90年以上を経過した古民家風の居酒屋で、広さは20坪程度。
 貸主は、周辺敷地3000㎡を一体開発して10階建てのマンションを建築する計画を有しており、敷地内に所在する他の戸建て10軒とは2年以内に期間が満了する定期借家契約を締結していました。

(2)賃貸借契約に関する事項
 本件建物自体は建築後90年以上を経過している古いものでした。
 本件居酒屋は契約が古く、2年ごとの自動更新条項が付された普通借家契約であったところ、古民家風居酒屋として口コミサイトでも上位の評価を得ており本件建物での営業継続を希望していたことから、貸主が立退きを求めた際にもこれに応じませんでした。

課題、争点

(1)解除原因または正当事由
 借主には契約違反等の解除原因はなかったため、老朽化による建物取壊しの必要性を正当事由として任意交渉中心で進める方針としました。

(2)立退料
 受任当初は300万円から500万円という見積りをしていましたが、結果は400万円で解決しました。

交渉、解決のポイント

(1)対話を重ねて信頼関係を構築
 借主はレトロな雰囲気の居酒屋の営業を継続することにこだわっていたため、3か月ほどにわたって何度も訪問して移転先で営業を継続することを前提とする対話を重ねて信頼関係を築くこととしました。
 移転先候補については、店舗の雰囲気、家賃、駅からの距離などについて細かく希望を聴取し、それを満たす物件があれば移転に応じられるとの回答を得ることができたため、物件探しに尽力することとしました。

(2)移転先物件探し
 借主は現在の常連客らが通い続けることができるように近隣での営業継続を希望していたところ、当該地域は駅からも近い場所であったため古民家風な居酒屋に向いた建物が少ないと同時に、家賃水準も高めであったため借主が希望する家賃での物件探しは難航を極めました。

 当方は条件に合致しそうな外観の建物があると、直接訪問して当該物件を貸してくれないか交渉したり、近隣への聞き込みをもとに所有者を探して連絡をとったりしました。
 そのようにして探索する中で、かつては居酒屋だったものの今では閉店していて使われていない丁度良い雰囲気の店舗を発見することができましたが、近隣の住民も所有者が誰であるのかは知らないようでしたので、建物登記簿謄本を取得して所有者を調べることととしました。
 そして、所有者に手紙を書いたところ、無事に居酒屋として営業するために貸してくれることになったため、借主の希望を満たす移転先物件を確保することができました。

(3)立退料
 それまでの移転先探しを通じて借主との間で信頼関係が築けていたこともあり、借主は当方に対して営業補償などは求めず、移転実費等の必要な費用のみを立退料として負担してくれれば良いとのことでした。

解決後の姿、解決により貸し主が享受した利益

 交渉開始から退去後の建物取壊し完了まで約1年という期間で、円満な雰囲気の下で低廉な立退料で退去が完了したことに貸主は大いに満足しました。
 他の定期借家契約の期間が満了し次第、貸主はマンション建築計画に取り掛かるとのことでした。

担当弁護士のひとこと

 不動産の明渡案件をスムーズに進めるためには、借主との間での対話を多く重ねることが何より大事だと感じます。
 最初はお互いの立場が相対立するように思われたとしても、何度も対話を重ねているうちに双方にとって負担が少ない形でより良い解決策を探そうと、双方が協力して明渡しに向けて進んでいく雰囲気が醸成されればベストです。

 本件はかなり老朽化した建物であったため、裁判になったとしても明渡しを認める判決が出る可能性は高いと思われました。他方、口コミサイトでも人気のある居酒屋であったため、裁判となった場合には立退料が相当高額になることが予想されていました。
 本件のような事案では、粘り強い交渉こそが低廉な立退料での解決を実現する最良の方法であったと改めて認識しています。



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