(1)建物の状況
大阪府内の鉄骨造りの5階建建物で、1軒のテナントは1階部分約250㎡を診療所として利用しています。もう1軒のテナントは5階部分、約100㎡を、会社の事務所として利用しています。対象土地は駅のすぐ近くであり、周辺には商業ビルが多く立ち並んでいます。
(2)建物賃貸借契約に関する事項
テナントは合計10軒おり、貸し主は、全テナントに立退きを求めていましたが、上記2軒のテナントが立退きに難色を示していました。
契約の始期は、まちまちですが、古いテナントは40年ほど前から賃借しています。契約期間は、自動更新されていました。
(1)解除原因または正当事由
5階の事務所テナントについては、賃料の支払が滞っていたことから、債務不履行解除による契約解除を構成することが可能でしたが、法律上確実に解除できるかは不透明でした。
一方の診療所は、解除原因は存在せず、耐震性の懸念、建物老朽化、有効活用を正当理由とする立退きです。
(2)立退料について
商業用のテナントであったため、債務不履行解除が認められない場合いずれも、立退料は高額になることが予想されましたが、会社事務所については、債務不履行解除を前提とした裁判上の和解が成立したため、およそ150万円の解決金での立退きが成立しました。
一方の診療所については、当初、2000万円を上回る立退料の提示がありましたが、耐震診断書により耐震性に問題がある建物であることを立証し、また経済合理性のある新たな建築プランや耐震補強工事をした場合の見積書の提示など、十分に正当事由を補完できる資料が準備できたことに加え、借家権価格の鑑定書をベースに立退料の協議ができたため、約700万円の立退料で解決しました。
いずれのテナントも、安易に立退きに応じるという姿勢ではなく、徹底的に争うというスタンスであったため、裁判所における訴訟活動は、判決を念頭に置いて行いました。
具体的には、債務不履行解除の主張を行ったテナントについては、判決で十分に勝てる主張、立証を心がけました。その結果、裁判所は、当該借主に、自身の主張が裁判上通用しないとの心証を開示し、それを機に、低廉な立退料での解決に進みました。
一方、解除事由がなく、正当事由に基づく明渡請求を行った事案でのテナントについては、確実に正当事由があることの認定を得るため、耐震診断書の準備、新たな建築プランの提示、耐震補強工事をした場合の見積書の提示、さらには借家権価格の鑑定書の提示をするなど、妥協のない姿勢をもって、主張立証活動を展開しました。それが奏功し、当初テナントが提示した立退料を大幅に減額させ、妥当な立退料での解決を実現することができました。
貸主は、当初より立退き後の土地に住居兼商業用ビルの建築を計画しており、土地の高度利用、有効活用が可能となりました。
明渡請求訴訟の勝訴判決を見据えた労力を惜しまず、緻密で強力な訴訟活動を行ったことが、依頼者の利益に適う解決へつながったものと思われます。