宗教団体の集会所として使用されていた建物の返還に成功した事例

※ 弁護士の守秘義務に関する日弁連規程第4条第4号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

ケースの概要

(1)建物の状況
 愛知県所在の2階建ての共同住宅、建物の床面積は約300㎡。借主はある宗教団体の主宰者であり、建物は団体の集会所兼信者の一時宿泊所等として使用されている。対象建物は、最寄駅から車で10分程度の立地にあり、周辺は一般的な住宅街となっている。

(2)建物賃貸借契約に関する事項
 元々の契約書が紛失していたため、正確な賃貸開始時期は不明であるものの、少なくとも建物賃貸借契約が開始してから既に40年以上が経過していた。借主側にこれまで賃料不払い等の債務不履行は無いものの、賃貸部分以外の場所に荷物を置くなど、建物使用について一部問題が見られた。

 対象建物は木造で築50年以上が経過しており、外観上老朽化していることは明らかであった。自治体の補助で建物の耐震性診断を実施したところ、震度5以上の地震があった場合には倒壊する可能性が高いとの診断が出たため、建て替えを決断し、建物賃貸借契約の更新を拒絶して退去を求めたものである。

(3)特記事項
 借主が宗教団体の主宰者であることもあり、対象建物には多数の人間が日常的に出入りしていた。他方で、対象建物に実際に住んでいるのは1名だけであり、借主側の建物使用の必要性は必ずしも高いとは言えない案件であった。

課題、争点

(1)解除原因または正当事由
 賃貸借契約の更新拒絶に伴い、契約期間満了を理由に退去を求めた案件。正当事由としては、建物の老朽化及び土地の再利用計画を主に主張。

(2)立退料について
 立退料は移転実費等合計で150万円。

交渉、解決のポイント

 長年に亘り賃料不払い等の債務不履行が無く、比較的良好な関係で賃貸借関係が続いてきたこともあり、クライアントからは訴訟ではなく、任意交渉で退去を実現して欲しいと要望を受けていた案件であった。クライアントの要望に従い、半年程度任意交渉を重ねたものの、転居先の確保が難しい等の理由により最終的な合意には至らなかった。これ以上任意交渉を続けても見込みが無いと判断し、クライアントを説得して訴訟により解決する方針に切り換えた。

 期間満了による建物賃貸借契約の終了を理由に訴訟を提起し、対象建物の明渡しを求めたところ、転居先を確保するために半年間の時間的猶予を与えること及び立退料150万円を支払うことを条件に和解が成立。和解による明け渡し期限までに対象建物内の残置物一切を撤去し、対象建物の明渡しを実現することができた。

解決後の姿、解決により貸し主が享受した利益

 対象建物の返還後、建物を取り壊し、新たに3階建ての賃貸住宅を建設することで、土地の再利用に繋がった。

担当弁護士のひとこと

 通常の共同住宅の明渡事案と異なり、借主が宗教団体の主宰者であり多数の人間が対象建物内に日常的に出入りしているという特殊性を持った案件でした。借主との任意交渉においてはこうした特殊性がネックとなり、新たに宗教団体の集会所として使用可能な転居先が近辺に見つからないという理由で、最終的な合意に至ることができませんでした。

 訴訟段階では、対象建物の老朽化を明確に示す建物診断書を証拠として提出したことや、土地の再利用計画を提示したことから、早々に更新拒絶に正当事由があるとの心証を裁判官に抱かせることに成功したため、あとは立退料の金額と転居先の確保が主要な争点となりました。

 最終的に、転居先を確保するための猶予期間として半年間の時間を設けること、立退料として150万円を支払うことで和解が成立しましたが、立退料の金額は対象建物の敷地の価格から考えると相当に割安であり、クライアントにも満足いただける結果となりました。



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