4軒のテナントが入居している貸店舗の返還に成功した事例

※ 弁護士の守秘義務に関する日弁連規程第4条第4号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

ケースの概要

(1)建物の状況
 愛知県所在の2階建ての貸店舗が合計4棟、貸店舗の合計床面積は約400㎡。貸店舗1棟につき1軒のテナントが入居しており、テナント数は、居酒屋やカラオケスナックなど合計4軒。対象建物は、最寄駅から車で10分程度の立地にあり、周辺は商業エリアと住宅エリアが混在した地域となっている。

(2)建物賃貸借契約に関する事項
 4軒のテナントそれぞれにつき契約時期はバラバラであり、契約内容もテナント毎に異なっている。最も古いテナントで、賃貸開始から約15年程度、最も新しいテナントは賃貸開始から1年程度しか経過していない。4棟の貸店舗はいずれも同時期に建築されたもので、築40年近くが経過している。旧耐震基準の頃に建てられた建物であるため、耐震性に問題があり、老朽化もある程度進んでいる状況にあった。
 クライアントとしては、貸店舗4棟全てを取り壊し、新たに土地上に店舗兼マンションを建築する計画があり、そのために現在入居しているテナント4軒と退去交渉を行った案件である。

(3)特記事項
 交渉を早期に妥結するために、テナント4軒それぞれと個別に交渉するのではなく、テナント4軒の代表者(テナントの賃借人の1人)を交渉窓口にして退去交渉を行った。

課題、争点

(1)解除原因または正当事由
 正当事由としては、建物の老朽化及び土地の再利用計画が挙げられるが、建物の老朽化の程度は著しいというものではなく、正当事由の程度としては比較的弱いと思われる案件であった。

(2)立退料について
 立退料はテナント4軒合計で2660万円。

交渉、解決のポイント

 対象建物は旧耐震基準の建物でそれなりに老朽化していたものの、鉄筋コンクリート造りの建物であり、外観上もそこまで老朽化が進んでいるようには見えず、訴訟となった場合には、正当事由が認められるかどうか微妙な事案であった。また、クライアントの強い要望で、なるべく早い解決を望んでいたことから、訴訟ではなく、任意交渉による解決を目指して交渉を開始した。

 交渉をスムーズに進めるために、テナントの賃借人1人を代表者として交渉窓口とし、立退料の金額及び明渡しに関する諸条件について交渉を行った。幸いにして、テナント4軒全て条件次第では退去に応じるとの意向であったことから、立退料の金額について、各テナントの売上額、利益率、転居に要する費用等の資料を根拠に個別に調整し、交渉開始から2カ月で立退料の概算額について合意が成立した。

 その後は、退去期限の調整や原状回復の要否など、明渡の諸条件の詰めの協議を行い、交渉開始から4カ月で4軒全てのテナントの退去が完了した。

解決後の姿、解決により貸し主が享受した利益

4棟の貸店舗を解体し、新たに4階建ての店舗兼マンションを建設することで、土地の再利用に繋がった。

担当弁護士のひとこと

 クライアントは、土地の再利用にあたって金融機関からの借り入れを検討していたところ、その当時金利等の融資条件がクライアントにとって有利であったため、クライアントとしては融資条件が有利な内にテナントの退去問題を解決し、早々に土地の再利用計画を進めたいという希望を有していました。
 その観点からすれば、交渉開始から4カ月という比較的短い期間で4軒全てのテナントの退去が完了したことは、クライアントの希望にかなった解決になったと考えています。



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