(1)建物の状況
賃貸人は埼玉県内の住宅街に、作業所兼倉庫を所有し、賃借人(法人)に賃貸していました。賃借人は同建物を使用し、梱包作業を請け負う業務を行っていました。
(2)建物賃貸借契約に関する事項
建物賃貸借契約は、30年以上前に締結されており、2年ごとに更新されていました。
しかし、建物は老朽化し、また、作業所において人が作業している様子が見受けられなくなり、ほぼ空き家の状態になっていたことから、賃貸人は当事務所に建物の立退き交渉を依頼しました。
(1)解除事由、正当事由
建物の老朽化、賃貸人に土地の有効活用計画の必要性があること、賃借人が作業所において事業を行っておらず、建物使用の必要性が低いことを主張しました。
(2)立退料について
賃借人は当初3000万円の立退料を求めましたが、交渉の結果、400万円での立退きに応じました。
賃借人に代理人弁護士が就任し、3000万円の立退料の支払いを求めていましたが、同代理人との交渉においては、明渡訴訟になれば、立退料なしか、低い立退料で正当事由が認められるであろうことを強調し、高額な立退料を支払う考えはないことを示しました。
代理人弁護士との交渉と同時に、本件の賃貸借契約の仲介を行った不動産業者に対し、代替物件の紹介をするよう依頼していたところ、賃借人が望む代替物件が見つかり、これを確保するために、賃借人は、賃貸人が提示していた400万円の立退料の支払いを条件に建物を明け渡すことに応じました。
作業所兼倉庫は速やかに取り壊され、現在は新しいマンションが建築されており、賃貸人において土地の有効活用が図られています。
立退き交渉において賃借人が高額な立退料を要望していても、希望に沿う代替物件が見つかれば、その代替物件の確保のために速やかに移転する必要が生じるため、比較的容易に話し合いがまとまります。
単に立ち退くよう要求するだけではなく、賃借人が希望する条件を丁寧に聴き取り、希望に沿う代替物件を提案していく努力が肝要です。