駅前再開発のため貸し土地5軒の立退きを行なったケース

※ 弁護士の守秘義務に関する日弁連規程第4条第4号にしたがい、掲載にあたり依頼者が特定できないよう、また依頼者の利益を損うおそれがないよう実際の事例を一部加工しております。
   

ケースの概要

(1)土地の状況
 対象土地は、中国地方の政令指定都市で新幹線の駅から徒歩2分ほどの位置に所在する1200㎡ほどの宅地でした。
 周辺は、再開発により誕生した大型商業施設やホテルのほか、オフィス、店舗に加えて、古くからある住宅などが混在する地域です。

 対象土地は、それぞれの敷地面積に相違はあるものの、戸建ての住宅が3軒(敷地面積はいずれもおよそ40㎡)、2階建ての貸店舗(2軒のテナントが入居)が1軒(敷地面積はおよそ40㎡)、来客型の店舗1軒(敷地面積はおよそ200㎡)が存在していました。

(2)土地賃貸借契約に関する事項
 借主は上記の建物ごとに5名(個人が4名、法人が1名)でした。
戸建ての住宅3軒についてはいずれも50年以上前に契約が開始したもので、地代は月額3万円〜6万円ですが、契約書は残っていませんでした。
 貸店舗1軒については30年ほど前に契約が開始していますが、地代は 月額2万円強というもので、契約書は残っていませんでした。
 店舗1軒については10年ほど前に契約が開始し、地代は月額17万円 でした。

(3)特記事項
 貸店舗については、1階と2階にそれぞれテナントが入居しており、それらのテナントの立退交渉は借主側で行なってもらうことになりましたが、貸主が借主に支払う立退料は、借主がテナントに支払う立退料を考慮して交渉することになりました。

課題、争点

(1)解除原因または正当事由
 全ての借主に対して、同時・一斉に、契約の解消と立退きを求めて協議を申し入れる旨の通知をしました。
 ただし、いずれの借主との関係でも、契約期間の満了時期が近いとは認められない状況であったため、更新を拒絶するとの表現は用いませんでした。

 上記通知の理由として、主に、借主らに対する賃貸という現状の対象土地の利用状況が、対象土地が存在するエリアの状況にそぐわなくなってきており、対象土地の全部をまとめて再開発して高度・有効利用することが合理的であるということを主張しました。

(2)立退料について
 借主らに支払う立退料に建物の解体費用と弁護士費用を含めた当初予算は1億5000万円でした。
 戸建て住宅3軒については、国税庁が定める路線価と借地権割合を利用して算出される借地権価格が1000万円ほどであったことから、これに引越費用50万円、見舞金100万円を加算した1150万円を提示しました。

 交渉の結果、それぞれ3000万円、4000万円、5000万円で解決・立退合意成立となりました。
 貸店舗については、借主側からおよそ3000万円の立退料の希望・提示があり、交渉の結果、2000万円で解決・立退合意成立となりました。
 来店型の店舗については、借主側から300万円弱との控え目な立退料の希望・提示があり、これについては貸主側において直ちに受諾して、立退合意を成立させました。
 結果的に、諸費用を合わせても当初予算から大きく上振れしない範囲内での解決となりました。

交渉、解決のポイント

 5軒の借主のいずれにも代理人は就かず、借主本人(法人の借主については担当者)と交渉を行い、交渉開始から1年3か月から1年11か月で立退合意が成立し、合意成立から3か月から5か月後に立退きも完了しました。

 借主とは個別に交渉を行い、早期に立退きに合意してもらえれば、立退料についてある程度の上乗せをするなどの提案をしながら、1軒1軒解決をしていき、その経過を残りの借主に適時に上手く伝えることでまた解決になるという好循環で、概ね予定どおりに全体解決をもたらすことができました。

解決後の姿、解決により貸し主が享受した利益

 概ね予定どおりのスケジュールの範囲内で、借主全部の立退きを完了し、貸主が所有する対象土地の再開発を実行することができ、それまでに借主から得ていた地代収入とは比較にならない収益を得ることができるようになりました。

担当弁護士のひとこと

 長年居住してきた借主にとっては、立退きにより引越先を探す負担だけでなく、それまで慣れ親しんだ住居や地域を離れることによる精神的・心理的な負担が大きく、この点に対する配慮の重要さを痛感させられた一件でした。



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