1 はじめに
賃借人が行方不明である場合や賃借人の相続が開始(賃借人の死亡)した場合、賃貸借契約が自動的に終了するとお考えの方も多いのではないでしょうか。
しかし、このような場合でも、賃貸借契約が自動的に終了するわけではありません。
また、これらの場合に賃貸人が、賃貸人の判断で、賃貸物件の中に立ち入ることや、賃貸物件内に残された物(いわゆる残置物)を処分・撤去することは、原則として許されていません。
では、賃借人が行方不明である場合や賃借人の相続が開始した場合、賃貸人はどのようにして立退きを実現することができるのでしょうか。本トピックスでは、「賃借人の行方不明、相続開始の場合の立退きの方法と成功のポイント」について、ご説明します。
2 賃借人が行方不明の場合
(1)何が問題となるのか
賃借人が行方不明であれば、賃料の支払もない場合がほとんどです。賃料が支払われなくなってしまうと、賃貸人としては賃料収入がなくなってしまいます。しかし、固定資産税や賃貸物件の修繕費の負担を免れることはできません。そのため、賃貸人の財産状況や賃貸物件の価値を悪化させてしまいます。
それだけではなく、賃貸人が土地工作物責任・所有者責任(民法717条)を負う危険性も高まります。例えば、賃貸物件内に残された、腐ってしまう生もの等の残置物を放置してしまうことにより、賃貸物件の床や壁等がダメージを受けてしまうことなどが考えられます。これにより人にケガを負わせてしまう危険性が高まってしまいます。そして、実際にケガを負わせてしまった場合は、賃貸物件の所有者である賃貸人は、土地工作物責任・所有者責任を負ってしまうことがあります。他にも、異臭等が発生し、近隣住民からのクレーム等の問題も想定されます。
賃貸人としては、このような問題を回避するためにも、行方不明の賃借人との賃貸借契約を早期に終了させ、立退きを実現する必要があります。しかし、賃借人が行方不明になっても、自動的に賃貸借契約が終了するわけではありません。
それでは、どのようにすれば、立退きを実現できるのでしょうか。
(2)立退きを進める方法
ア 多くの場合は、賃料不払いを理由として解除することができる
賃借人が行方不明の場合、多くは賃料の支払いもストップすることになりますので、賃料の不払いを理由とした賃貸借契約の解除により、立退きを実現することができます。
なお、賃料の不払いを理由とする解除の場合、いわゆる信頼関係破壊の法理によって、1か月程度の賃料不払いで解除が認められることはほとんどありません。解除が認められる目安は、一般的には少なくとも3か月以上の賃料の不払いが必要と考えられています。もちろん、様々な事情が考慮されて解除ができるかどうかが判断されますので、3か月以上の賃料の不払いがあるからといっても、確実に賃貸借契約が解除できるというわけではない点にご注意下さい。
イ 解除を実現するためには、解除の意思表示を到達させる必要がある
賃料の不払いを理由として賃貸借契約を解除するためには、賃貸人の解除の意思表示を賃借人に到達させなければなりません。つまり、解除するという意思を、賃借人に届ける必要があるのです。
しかし、賃借人が行方不明ということは、言い換えれば、賃借人に解除の意思を届けることができないということです。そのため、どのようにして賃貸借契約を解除し、立退きを実現するかが問題となります。
ウ まずは賃借人の住所を特定する
まず、解除の意思を賃借人に届けるために、賃借人の最新の居住先を判明させることが考えられます。具体的には、賃借人の住民票を取得して、現在の住所を特定します。なお、賃借人の住民票の取得は、弁護士等の専門家でないと行うのが難しい場合もあります。
エ 特定した住所に内容証明郵便を送達する
特定した賃借人の住所に、解除の意思を記載した書面を送付します。ここでは、「配達証明付きの内容証明郵便」で送付することが重要となります。配達証明を付けた内容証明郵便であれば、「いつ、解除する意思を賃借人に伝えたか(いつ、賃借人が、賃貸人の解除するという意思を受け取ったか)」の裏付けとなるからです。
賃料不払いを理由として解除をする場合は、原則として、催告(賃料の支払いを催促すること)が必要となるため、「〇〇年〇〇月〇〇日までに滞納賃料〇〇万円をお支払いいただけない場合は、賃貸借契約を解除します。」等と記載するのが良いでしょう。なお、あまりにも悪質な賃料不払いのケースの場合は、催告をしないで解除すること(無催告解除)が可能な場合もあります。
オ 特定した住所に居住していない場合
しかし、賃借人が行方不明の場合は、住民票を取得して現在の住所を特定しても、その住所に居住していない場合や、そもそも賃貸物件から住民票上の住所を変更していない場合が少なくありません(そうであるからこそ、行方不明と言えます。)。
そのため、住民票に記載の住所に内容証明郵便を送付しても、解除する意思を届けることができない場合が多いものです(不達で内容証明郵便が返送されてしまいます。)。
カ 公示送達・訴訟提起
(ア)どのようにして解除する意思を届けるか?
では、賃借人の住民票を調査しても、解除を実現することができない場合、どのような方法があるのでしょうか。
その答えは、「訴訟提起」と「公示送達」です。
(イ)訴訟提起
賃借人が行方不明の場合、多くは賃料不払いが生じているため、賃貸人は賃料不払いを理由として賃貸借契約を解除できる点は、既に述べたとおりです。そのため、賃貸人は、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除したことを主張して、賃借人に対し、賃貸物件の明渡請求訴訟を提起することができます。
明渡請求訴訟を提起する場合、賃貸人は原告として訴状を裁判所に提出する必要があります。裁判所に提出された訴状は被告である賃借人に送達されますので、通常であれば、訴状に解除の意思を記載すれば、賃借人に送達されます。
(ウ)訴状を「公示送達」することで、立退きを実現できる
しかし、行方不明である賃借人に対しては、送達ができません。
そこで、解決策として登場するのが、「公示送達」です。
公示送達とは、「名宛人の住所不明等によって訴状等の書類を送達することができない場合に、一定の期間、裁判所の掲示板に名宛人に送りたい書面があることを掲示することで、当該書面を送達したことの効果を得る方法」のことを言います。つまり、公示送達を行うことによって、(実際には賃借人に訴状は送達されていませんが、)法律上の効果として、解除の意思表示が到達したのと同様の効果を得ることができるのです。
その後、明渡を認める判決を取得(被告欠席の欠席判決となるのが通常です。)し、この判決をもって明渡しの強制執行を行い、立退きを実現することとなります。
このように、公示送達を利用することで、賃貸借契約の解除を実現することができるのです。
(エ)公示送達を実現するためには弁護士が必要
ただし、公示送達を利用するためには、「賃借人が行方不明であることを証明する」という決して容易ではないハードルがあることに注意が必要です。
行方不明であることを証明するためには、例えば、賃借人の住民票に記載されている住所やその近隣での調査を行い、調査報告書(住所の電気メーターやガスメーターの状況や、郵便受けの状況のみならず、近隣住民への聞き込みの結果を記載することもあります。場合によっては、賃借人の親族や賃借人の連帯保証人がいる場合はその連帯保証人に連絡を取り、聴取した事情を記載することもあります。探偵に所在調査を依頼することもあります。)を作成し、裁判所に提出します。
公示送達を利用した訴訟提起を、賃貸人本人が自ら行うことは容易ではないと思いますので、立退きの実務に精通した弁護士に依頼するのが良いかと思います。
(3)強制執行
行方不明の賃借人に対して、新住所を特定したり、公示送達を利用したりして賃貸借契約を解除できたとしても、建物の中にある残置物を賃貸人の判断で処分することは原則としてできません。明渡を認める判決に基づき、裁判所を通じて強制執行を行う必要があります。この点、公示送達を利用して解除した場合には、勝訴判決が手元にあることとなりますが、仮に新住所を特定でき、賃借人と連絡がついたとしても、賃借人が残置物の処分を自ら行うとは限りません。このような場合にも、まずは、賃借人に対して訴訟提起を行い、明渡を認める判決を取得する必要があります。
明渡の強制執行の手続の中で、執行官、執行補助者が、残置物の搬出作業を行うこととなります。(明渡の断行)
このように、裁判所を通じて強制執行を行うことで、残置物を建物の中から搬出することができるようになります。強制執行の手続きには、通常数十万円の費用がかかってしまいますが、残置物をいつまでも放置しておくわけにもいきませんので、裁判所を通じた強制執行の手続を行うことは重要となってきます。
3 賃借人の相続が開始(賃借人の死亡)した場合
(1)何が問題となるのか
賃借人の相続が開始した場合、法律上は、賃借人の相続人が、賃借人の地位を引き継ぐこととなります。賃借人の相続人が、賃貸人に連絡を取り、適切に賃貸借契約の解約等の諸手続きを行っていただければ何も問題とならないのですが、必ずしも、賃借人の相続人に適切な対応を取っていただけるとは限りません。
賃借人の相続人に適切な対応を取っていただけなかった場合の問題点は、賃借人が行方不明の場合と同様です。賃料の支払いが滞ること、残置物の放置による建物へのダメージや異臭問題などがあります。
それでは、賃借人の相続が開始した場合、賃貸人はどのように立退きを進めていけばよいのでしょうか。
(2)相続開始によって立退きを進めやすくなる場合もある
賃借人が死亡すると、賃借人の相続人が、賃借人の地位を承継します。そのため、賃借人の相続人が新たな賃借人となるだけであって、立退きを実現できないのではないかとお考えの方も多いと思います。
しかし、実際には、相続人のほとんどは、各自それぞれ賃借や所有している不動産で生活しています。そのため、賃借人から承継した賃貸借契約の継続を希望しない場合もあります。
この場合であれば、賃借人の相続人との間で賃貸借契約を合意によって解約することで、立退きを実現できることもあります。借地の場合は、借地権を買い戻すことで、立退きを実現できることもあります。
(3)立退きを進める方法
ア 賃借人の相続が開始しても賃貸借契約は継続
賃借人の相続が開始する場合、賃貸借契約は当然には終了せず、賃借人の相続人が、賃借人の地位を承継することになります。
なお、賃借人の相続が開始した場合に、賃貸人から賃貸借契約を解除できるという内容や、賃貸借契約が当然に終了するといった内容の特約が、賃貸借契約に記載されていることもありますが、このような特約は借地借家法9条や30条によって無効となることもありますので、このような特約があったとしても慎重な対応が必要です。
イ まずは相続人を確定する
賃借人の相続人から、自ら連絡をいただける場合は問題ないのですが、連絡をいただけない場合、まずは賃借人の相続人が誰なのか、何人いるのか等を調査する必要があります。具体的には、戸籍を取得し、賃借人の配偶者や子供、両親や兄弟姉妹を中心に法定相続人の調査をしていくことになります。
代襲相続や数次相続、養子縁組や離婚・再婚等の影響で、相続人の確定が想定より困難となる場合も少なくなく、時間を要する可能性もあります。
ウ 相続人が1名であった場合
相続人が1名の場合は、賃借人としての地位を、その相続人1名が承継することになります。そのため、その相続人の意向を確認し、賃貸借契約を継続するのか、合意により解約するのか等を決めることになります。
相続人が賃貸借契約の継続を望まず、賃貸人としても継続を希望しない場合は、合意によって賃貸借契約を終了させ、立退きを実現することができます。この場合、合意による解約だけでなく、残置物の撤去についても合意し、書面を作成しておくことで、後の紛争の危険性を減らすことができます。
一方で、相続人が賃貸借契約の継続を望む場合は、賃料の不払い等の事情がない限り、原則として解除はできません。もっとも、交渉次第では、立退料を支払ったり、借地権を買い戻したりすることで、立退きを実現できる場合もあります。
エ 相続人が複数人の場合
相続人が複数の場合は、以下の点に注意が必要です。
(ア)相続人全員が、賃借人としての地位を準共有している
相続人が複数いる場合、賃借人としての地位を、相続人の全員が承継しています(法律上、「準共有」といいます。)。つまり、相続人全員が賃借人の地位を有している状況となるので、相続人全員を賃借人として扱う必要があります。
言い換えれば、相続人を漏れなく知る必要があるということです。
(イ)遺産分割が成立しているか否かの確認が必要
ところが、遺産分割協議によって、一部の相続人のみが賃借人としての地位を承継することもあります。
遺産分割とは、亡くなった人の財産を、相続人でどのように分けるか(誰がどの財産をもらうか)を決めることです。財産には、賃借人としての地位(賃借権)も含まれますので、一部の相続人が賃借人の地位を承継する内容の遺産分割が成立すると、その相続人だけが賃借人となります(実際には、相続人のうち1名が承継することが多いかと思います。)。
この遺産分割に関して、注意するべきポイントがあります。それは、遺産分割が成立する前の賃料は相続人全員が、それぞれ全額支払う義務があるということです。例えば、XさんがYさんに、月額10万円でマンションの1室を貸していたとします。ある日、Yさんが死亡し、相続人のAさん、Bさん、Cさんの3名がYさんを相続しました。3名の間でまだ遺産分割が成立していないとき、Xさんは、A・B・Cさんの「それぞれ」に対して、Yさんが死亡した後の月額10万円の賃料を請求することができるのです。(もちろん、総額で10万円を超えて賃料を受領してはいけません。)
なお、賃借人が亡くなった時までに発生していた賃料については、相続人が法定相続分に従って負担します。
(ウ)賃料不払いがある場合に賃貸借契約解除を実現する方法
相続開始後、賃料を支払う債務は相続人全員が負うことになりますが、相続人によっては、賃借人と元々不仲であるなど、様々な理由により、賃料を支払ってこないこともあります。
この場合、賃料不払いを理由として賃貸借契約を解除することができます。
ただし、遺産分割が成立する前であれば、相続人全員に対して解除の意思を届けなければならないため(民法544条1項)、注意が必要です。
オ 相続人と連絡が取れるかどうかも重要
相続人を確定し、相続人との連絡が取れれば、立退きの交渉を行い、立退きを実現することもできます。
しかし、連絡が取れない(書面を送っても反応がない等の)場合には、訴訟を提起し、明渡を認める判決を得て、強制執行を実施し、立退きを実現していくこととなります。
カ 相続人が存在しないと判明した場合の対応
この場合であっても、自動的に賃貸借契約は終了しません。賃貸人からすれば、賃貸借契約を解除して立退きを実現するとともに、未払い賃料があればこれを回収したいと考えるのは当然です。しかし、相続人が存在しないため、誰に対して何をすればよいのか、問題となってしまいます。
この場合、立退きや未払いの賃料回収等を実現するためには、裁判所に対し、相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります(民法952条1項)。
相続財産清算人とは、亡くなった賃借人(被相続人)に相続人がいない場合(あるいは相続人がいるかどうかが不明な場合)に、亡くなった賃借人のプラスの財産やマイナスの財産を整理し、これを清算するために様々な職務を遂行する人のことです。この相続財産清算人は、国や裁判所が自動的に選任してくれるわけではないので、他に選任の申し立てをしてくれる人がいなければ、賃貸人自らが申し立てなければならないということになります。この申し立てには、予納金などの費用の負担も必要となることがありますので、注意が必要です。
相続財産清算人が選任された後は、相続財産清算人との間で賃貸借契約を解約して立退きを実現したり、未払い賃料がある場合は同人が管理している亡くなった賃借人の財産から回収することになります。また、残置物の処分も相続財産清算人に行ってもらえるのが通常です。
4 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合における課題と成功のポイント
(1)事態を放置した場合、問題・損害が拡大してしまう
賃借人が行方不明になってしまった場合や、相続が開始した場合に、賃料の支払いがストップしてしまうことは多いですが、これを放置しておけば、賃料収入を長期間失うことになります。それだけではなく、賃貸借契約を解約し、きちんと立退きを実現しなければ、新たな賃借人を入居させることもできなくなってしまうのです。
また、残置物の放置によって、賃貸物件がダメージを負い、その後の賃料収入にも悪影響を及ぼすリスクもあります。当然、放置すればするほど、その影響は大きくなってしまいます。
賃貸人としては、賃料収入から固定資産税や修繕費等の支出を確保していますので、賃料収入が長期間ストップすること、新たな賃借人を入居させることができないこと、賃貸物件にダメージを生じさせること等は、迅速かつ適切に対処しなければならない、大きな問題です。
(2)交渉や裁判の決断が重要
そして、これらの問題を解決するためには、行方不明となった賃借人や、賃借人の相続人を調査し、迅速に交渉を開始し、交渉で問題を解決できない場合には訴訟を提起することで問題を解決することが重要となります。
つまり、交渉や裁判を行う迅速な決断が重要となるのです。交渉や裁判を行うにあたっては、立退きの実務に精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。
5 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合に関するよくある質問
質問(1)
Q 賃借人が行方不明の場合や相続開始によって、長期間誰も住んでいない状況になってしまった場合、残置物の処分をしてもよいのでしょうか?
A 原則として、賃貸人の判断で処分することはできません。
賃貸人としては、できるだけ早く行方不明の賃借人あるいは賃借人の相続人に連絡し、残置物を処分してもらう必要があります。行方不明の賃借人や賃借人の相続人と連絡が取れなかったり、協力を得られなかったりする場合、裁判を提起し、勝訴判決をもって、強制執行を行うことで残置物の処分が可能となります。
質問(2)
Q 相続人と名乗る人が、建物内に立ち入りたいと申し出た場合、どのように対処したらいいでしょうか?
A 賃借人としては、まず、相続人と名乗る人が真に相続人であるか否かを確かめなければなりません。戸籍を提出してもらったり、相続人と名乗る者の免許証などの本人確認書類を確認して相続人本人であることを確認したりする必要があります。
さらに、仮に相続人であることが確認できたとしても、その他にも相続人がいる場合には、既に遺産分割が成立しているのか、成立しているとしてその内容(誰が賃借人としての地位を承継しているのか。)等を確認する必要があります。
相続人と名乗る人が立ち入りを希望した場合に、即座に上記のすべてを確認することは非常に困難です。そのため、どのような対応をすべきか、場合によっては、立退きの実務に精通した弁護士に相談・確認するのも良いでしょう。
6 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合の立退きの方法のまとめ
本記事では、賃借人の行方不明、相続開始の場合に、立退きを実現する方法と成功のポイントについてご説明しました。
賃借人の行方不明、相続開始の場合に、状況を放置してしまうと、賃貸人にとっては、損害が拡大してしまいかねません。
当事務所は、立退きに関する紛争にとどまらず、相続に関する紛争も数多く取り扱っております。賃借人の行方不明、相続開始により、どのように対応したらよいかお困りの賃貸人オーナー様は、立退きに関する紛争や相続に関する紛争に精通した弁護士が多く在籍する当事務所まで御相談下さい。
では、賃借人の住民票を調査しても、解除を実現することができない場合、どのような方法があるのでしょうか。
その答えは、「訴訟提起」と「公示送達」です。
賃借人が行方不明の場合、多くは賃料不払いが生じているため、賃貸人は賃料不払いを理由として賃貸借契約を解除できる点は、既に述べたとおりです。そのため、賃貸人は、賃料不払いを理由に賃貸借契約を解除したことを主張して、賃借人に対し、賃貸物件の明渡請求訴訟を提起することができます。
明渡請求訴訟を提起する場合、賃貸人は原告として訴状を裁判所に提出する必要があります。裁判所に提出された訴状は被告である賃借人に送達されますので、通常であれば、訴状に解除の意思を記載すれば、賃借人に送達されます。
しかし、行方不明である賃借人に対しては、送達ができません。
そこで、解決策として登場するのが、「公示送達」です。
公示送達とは、「名宛人の住所不明等によって訴状等の書類を送達することができない場合に、一定の期間、裁判所の掲示板に名宛人に送りたい書面があることを掲示することで、当該書面を送達したことの効果を得る方法」のことを言います。つまり、公示送達を行うことによって、(実際には賃借人に訴状は送達されていませんが、)法律上の効果として、解除の意思表示が到達したのと同様の効果を得ることができるのです。
その後、明渡を認める判決を取得(被告欠席の欠席判決となるのが通常です。)し、この判決をもって明渡しの強制執行を行い、立退きを実現することとなります。
このように、公示送達を利用することで、賃貸借契約の解除を実現することができるのです。
ただし、公示送達を利用するためには、「賃借人が行方不明であることを証明する」という決して容易ではないハードルがあることに注意が必要です。
行方不明であることを証明するためには、例えば、賃借人の住民票に記載されている住所やその近隣での調査を行い、調査報告書(住所の電気メーターやガスメーターの状況や、郵便受けの状況のみならず、近隣住民への聞き込みの結果を記載することもあります。場合によっては、賃借人の親族や賃借人の連帯保証人がいる場合はその連帯保証人に連絡を取り、聴取した事情を記載することもあります。探偵に所在調査を依頼することもあります。)を作成し、裁判所に提出します。
公示送達を利用した訴訟提起を、賃貸人本人が自ら行うことは容易ではないと思いますので、立退きの実務に精通した弁護士に依頼するのが良いかと思います。
(3)強制執行
行方不明の賃借人に対して、新住所を特定したり、公示送達を利用したりして賃貸借契約を解除できたとしても、建物の中にある残置物を賃貸人の判断で処分することは原則としてできません。明渡を認める判決に基づき、裁判所を通じて強制執行を行う必要があります。この点、公示送達を利用して解除した場合には、勝訴判決が手元にあることとなりますが、仮に新住所を特定でき、賃借人と連絡がついたとしても、賃借人が残置物の処分を自ら行うとは限りません。このような場合にも、まずは、賃借人に対して訴訟提起を行い、明渡を認める判決を取得する必要があります。
明渡の強制執行の手続の中で、執行官、執行補助者が、残置物の搬出作業を行うこととなります。(明渡の断行)
このように、裁判所を通じて強制執行を行うことで、残置物を建物の中から搬出することができるようになります。強制執行の手続きには、通常数十万円の費用がかかってしまいますが、残置物をいつまでも放置しておくわけにもいきませんので、裁判所を通じた強制執行の手続を行うことは重要となってきます。
3 賃借人の相続が開始(賃借人の死亡)した場合
(1)何が問題となるのか
賃借人の相続が開始した場合、法律上は、賃借人の相続人が、賃借人の地位を引き継ぐこととなります。賃借人の相続人が、賃貸人に連絡を取り、適切に賃貸借契約の解約等の諸手続きを行っていただければ何も問題とならないのですが、必ずしも、賃借人の相続人に適切な対応を取っていただけるとは限りません。
賃借人の相続人に適切な対応を取っていただけなかった場合の問題点は、賃借人が行方不明の場合と同様です。賃料の支払いが滞ること、残置物の放置による建物へのダメージや異臭問題などがあります。
それでは、賃借人の相続が開始した場合、賃貸人はどのように立退きを進めていけばよいのでしょうか。
(2)相続開始によって立退きを進めやすくなる場合もある
賃借人が死亡すると、賃借人の相続人が、賃借人の地位を承継します。そのため、賃借人の相続人が新たな賃借人となるだけであって、立退きを実現できないのではないかとお考えの方も多いと思います。
しかし、実際には、相続人のほとんどは、各自それぞれ賃借や所有している不動産で生活しています。そのため、賃借人から承継した賃貸借契約の継続を希望しない場合もあります。
この場合であれば、賃借人の相続人との間で賃貸借契約を合意によって解約することで、立退きを実現できることもあります。借地の場合は、借地権を買い戻すことで、立退きを実現できることもあります。
(3)立退きを進める方法
ア 賃借人の相続が開始しても賃貸借契約は継続
賃借人の相続が開始する場合、賃貸借契約は当然には終了せず、賃借人の相続人が、賃借人の地位を承継することになります。
なお、賃借人の相続が開始した場合に、賃貸人から賃貸借契約を解除できるという内容や、賃貸借契約が当然に終了するといった内容の特約が、賃貸借契約に記載されていることもありますが、このような特約は借地借家法9条や30条によって無効となることもありますので、このような特約があったとしても慎重な対応が必要です。
イ まずは相続人を確定する
賃借人の相続人から、自ら連絡をいただける場合は問題ないのですが、連絡をいただけない場合、まずは賃借人の相続人が誰なのか、何人いるのか等を調査する必要があります。具体的には、戸籍を取得し、賃借人の配偶者や子供、両親や兄弟姉妹を中心に法定相続人の調査をしていくことになります。
代襲相続や数次相続、養子縁組や離婚・再婚等の影響で、相続人の確定が想定より困難となる場合も少なくなく、時間を要する可能性もあります。
ウ 相続人が1名であった場合
相続人が1名の場合は、賃借人としての地位を、その相続人1名が承継することになります。そのため、その相続人の意向を確認し、賃貸借契約を継続するのか、合意により解約するのか等を決めることになります。
相続人が賃貸借契約の継続を望まず、賃貸人としても継続を希望しない場合は、合意によって賃貸借契約を終了させ、立退きを実現することができます。この場合、合意による解約だけでなく、残置物の撤去についても合意し、書面を作成しておくことで、後の紛争の危険性を減らすことができます。
一方で、相続人が賃貸借契約の継続を望む場合は、賃料の不払い等の事情がない限り、原則として解除はできません。もっとも、交渉次第では、立退料を支払ったり、借地権を買い戻したりすることで、立退きを実現できる場合もあります。
エ 相続人が複数人の場合
相続人が複数の場合は、以下の点に注意が必要です。
(ア)相続人全員が、賃借人としての地位を準共有している
相続人が複数いる場合、賃借人としての地位を、相続人の全員が承継しています(法律上、「準共有」といいます。)。つまり、相続人全員が賃借人の地位を有している状況となるので、相続人全員を賃借人として扱う必要があります。
言い換えれば、相続人を漏れなく知る必要があるということです。
(イ)遺産分割が成立しているか否かの確認が必要
ところが、遺産分割協議によって、一部の相続人のみが賃借人としての地位を承継することもあります。
遺産分割とは、亡くなった人の財産を、相続人でどのように分けるか(誰がどの財産をもらうか)を決めることです。財産には、賃借人としての地位(賃借権)も含まれますので、一部の相続人が賃借人の地位を承継する内容の遺産分割が成立すると、その相続人だけが賃借人となります(実際には、相続人のうち1名が承継することが多いかと思います。)。
この遺産分割に関して、注意するべきポイントがあります。それは、遺産分割が成立する前の賃料は相続人全員が、それぞれ全額支払う義務があるということです。例えば、XさんがYさんに、月額10万円でマンションの1室を貸していたとします。ある日、Yさんが死亡し、相続人のAさん、Bさん、Cさんの3名がYさんを相続しました。3名の間でまだ遺産分割が成立していないとき、Xさんは、A・B・Cさんの「それぞれ」に対して、Yさんが死亡した後の月額10万円の賃料を請求することができるのです。(もちろん、総額で10万円を超えて賃料を受領してはいけません。)
なお、賃借人が亡くなった時までに発生していた賃料については、相続人が法定相続分に従って負担します。
(ウ)賃料不払いがある場合に賃貸借契約解除を実現する方法
相続開始後、賃料を支払う債務は相続人全員が負うことになりますが、相続人によっては、賃借人と元々不仲であるなど、様々な理由により、賃料を支払ってこないこともあります。
この場合、賃料不払いを理由として賃貸借契約を解除することができます。
ただし、遺産分割が成立する前であれば、相続人全員に対して解除の意思を届けなければならないため(民法544条1項)、注意が必要です。
オ 相続人と連絡が取れるかどうかも重要
相続人を確定し、相続人との連絡が取れれば、立退きの交渉を行い、立退きを実現することもできます。
しかし、連絡が取れない(書面を送っても反応がない等の)場合には、訴訟を提起し、明渡を認める判決を得て、強制執行を実施し、立退きを実現していくこととなります。
カ 相続人が存在しないと判明した場合の対応
この場合であっても、自動的に賃貸借契約は終了しません。賃貸人からすれば、賃貸借契約を解除して立退きを実現するとともに、未払い賃料があればこれを回収したいと考えるのは当然です。しかし、相続人が存在しないため、誰に対して何をすればよいのか、問題となってしまいます。
この場合、立退きや未払いの賃料回収等を実現するためには、裁判所に対し、相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります(民法952条1項)。
相続財産清算人とは、亡くなった賃借人(被相続人)に相続人がいない場合(あるいは相続人がいるかどうかが不明な場合)に、亡くなった賃借人のプラスの財産やマイナスの財産を整理し、これを清算するために様々な職務を遂行する人のことです。この相続財産清算人は、国や裁判所が自動的に選任してくれるわけではないので、他に選任の申し立てをしてくれる人がいなければ、賃貸人自らが申し立てなければならないということになります。この申し立てには、予納金などの費用の負担も必要となることがありますので、注意が必要です。
相続財産清算人が選任された後は、相続財産清算人との間で賃貸借契約を解約して立退きを実現したり、未払い賃料がある場合は同人が管理している亡くなった賃借人の財産から回収することになります。また、残置物の処分も相続財産清算人に行ってもらえるのが通常です。
4 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合における課題と成功のポイント
(1)事態を放置した場合、問題・損害が拡大してしまう
賃借人が行方不明になってしまった場合や、相続が開始した場合に、賃料の支払いがストップしてしまうことは多いですが、これを放置しておけば、賃料収入を長期間失うことになります。それだけではなく、賃貸借契約を解約し、きちんと立退きを実現しなければ、新たな賃借人を入居させることもできなくなってしまうのです。
また、残置物の放置によって、賃貸物件がダメージを負い、その後の賃料収入にも悪影響を及ぼすリスクもあります。当然、放置すればするほど、その影響は大きくなってしまいます。
賃貸人としては、賃料収入から固定資産税や修繕費等の支出を確保していますので、賃料収入が長期間ストップすること、新たな賃借人を入居させることができないこと、賃貸物件にダメージを生じさせること等は、迅速かつ適切に対処しなければならない、大きな問題です。
(2)交渉や裁判の決断が重要
そして、これらの問題を解決するためには、行方不明となった賃借人や、賃借人の相続人を調査し、迅速に交渉を開始し、交渉で問題を解決できない場合には訴訟を提起することで問題を解決することが重要となります。
つまり、交渉や裁判を行う迅速な決断が重要となるのです。交渉や裁判を行うにあたっては、立退きの実務に精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。
5 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合に関するよくある質問
質問(1)
Q 賃借人が行方不明の場合や相続開始によって、長期間誰も住んでいない状況になってしまった場合、残置物の処分をしてもよいのでしょうか?
A 原則として、賃貸人の判断で処分することはできません。
賃貸人としては、できるだけ早く行方不明の賃借人あるいは賃借人の相続人に連絡し、残置物を処分してもらう必要があります。行方不明の賃借人や賃借人の相続人と連絡が取れなかったり、協力を得られなかったりする場合、裁判を提起し、勝訴判決をもって、強制執行を行うことで残置物の処分が可能となります。
質問(2)
Q 相続人と名乗る人が、建物内に立ち入りたいと申し出た場合、どのように対処したらいいでしょうか?
A 賃借人としては、まず、相続人と名乗る人が真に相続人であるか否かを確かめなければなりません。戸籍を提出してもらったり、相続人と名乗る者の免許証などの本人確認書類を確認して相続人本人であることを確認したりする必要があります。
さらに、仮に相続人であることが確認できたとしても、その他にも相続人がいる場合には、既に遺産分割が成立しているのか、成立しているとしてその内容(誰が賃借人としての地位を承継しているのか。)等を確認する必要があります。
相続人と名乗る人が立ち入りを希望した場合に、即座に上記のすべてを確認することは非常に困難です。そのため、どのような対応をすべきか、場合によっては、立退きの実務に精通した弁護士に相談・確認するのも良いでしょう。
6 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合の立退きの方法のまとめ
本記事では、賃借人の行方不明、相続開始の場合に、立退きを実現する方法と成功のポイントについてご説明しました。
賃借人の行方不明、相続開始の場合に、状況を放置してしまうと、賃貸人にとっては、損害が拡大してしまいかねません。
当事務所は、立退きに関する紛争にとどまらず、相続に関する紛争も数多く取り扱っております。賃借人の行方不明、相続開始により、どのように対応したらよいかお困りの賃貸人オーナー様は、立退きに関する紛争や相続に関する紛争に精通した弁護士が多く在籍する当事務所まで御相談下さい。
賃借人の相続が開始する場合、賃貸借契約は当然には終了せず、賃借人の相続人が、賃借人の地位を承継することになります。
なお、賃借人の相続が開始した場合に、賃貸人から賃貸借契約を解除できるという内容や、賃貸借契約が当然に終了するといった内容の特約が、賃貸借契約に記載されていることもありますが、このような特約は借地借家法9条や30条によって無効となることもありますので、このような特約があったとしても慎重な対応が必要です。
イ まずは相続人を確定する
賃借人の相続人から、自ら連絡をいただける場合は問題ないのですが、連絡をいただけない場合、まずは賃借人の相続人が誰なのか、何人いるのか等を調査する必要があります。具体的には、戸籍を取得し、賃借人の配偶者や子供、両親や兄弟姉妹を中心に法定相続人の調査をしていくことになります。
代襲相続や数次相続、養子縁組や離婚・再婚等の影響で、相続人の確定が想定より困難となる場合も少なくなく、時間を要する可能性もあります。
ウ 相続人が1名であった場合
相続人が1名の場合は、賃借人としての地位を、その相続人1名が承継することになります。そのため、その相続人の意向を確認し、賃貸借契約を継続するのか、合意により解約するのか等を決めることになります。
相続人が賃貸借契約の継続を望まず、賃貸人としても継続を希望しない場合は、合意によって賃貸借契約を終了させ、立退きを実現することができます。この場合、合意による解約だけでなく、残置物の撤去についても合意し、書面を作成しておくことで、後の紛争の危険性を減らすことができます。
一方で、相続人が賃貸借契約の継続を望む場合は、賃料の不払い等の事情がない限り、原則として解除はできません。もっとも、交渉次第では、立退料を支払ったり、借地権を買い戻したりすることで、立退きを実現できる場合もあります。
エ 相続人が複数人の場合
相続人が複数の場合は、以下の点に注意が必要です。
相続人が複数いる場合、賃借人としての地位を、相続人の全員が承継しています(法律上、「準共有」といいます。)。つまり、相続人全員が賃借人の地位を有している状況となるので、相続人全員を賃借人として扱う必要があります。
言い換えれば、相続人を漏れなく知る必要があるということです。
ところが、遺産分割協議によって、一部の相続人のみが賃借人としての地位を承継することもあります。
遺産分割とは、亡くなった人の財産を、相続人でどのように分けるか(誰がどの財産をもらうか)を決めることです。財産には、賃借人としての地位(賃借権)も含まれますので、一部の相続人が賃借人の地位を承継する内容の遺産分割が成立すると、その相続人だけが賃借人となります(実際には、相続人のうち1名が承継することが多いかと思います。)。
この遺産分割に関して、注意するべきポイントがあります。それは、遺産分割が成立する前の賃料は相続人全員が、それぞれ全額支払う義務があるということです。例えば、XさんがYさんに、月額10万円でマンションの1室を貸していたとします。ある日、Yさんが死亡し、相続人のAさん、Bさん、Cさんの3名がYさんを相続しました。3名の間でまだ遺産分割が成立していないとき、Xさんは、A・B・Cさんの「それぞれ」に対して、Yさんが死亡した後の月額10万円の賃料を請求することができるのです。(もちろん、総額で10万円を超えて賃料を受領してはいけません。)
なお、賃借人が亡くなった時までに発生していた賃料については、相続人が法定相続分に従って負担します。
相続開始後、賃料を支払う債務は相続人全員が負うことになりますが、相続人によっては、賃借人と元々不仲であるなど、様々な理由により、賃料を支払ってこないこともあります。
この場合、賃料不払いを理由として賃貸借契約を解除することができます。
ただし、遺産分割が成立する前であれば、相続人全員に対して解除の意思を届けなければならないため(民法544条1項)、注意が必要です。
オ 相続人と連絡が取れるかどうかも重要
相続人を確定し、相続人との連絡が取れれば、立退きの交渉を行い、立退きを実現することもできます。
しかし、連絡が取れない(書面を送っても反応がない等の)場合には、訴訟を提起し、明渡を認める判決を得て、強制執行を実施し、立退きを実現していくこととなります。
カ 相続人が存在しないと判明した場合の対応
この場合であっても、自動的に賃貸借契約は終了しません。賃貸人からすれば、賃貸借契約を解除して立退きを実現するとともに、未払い賃料があればこれを回収したいと考えるのは当然です。しかし、相続人が存在しないため、誰に対して何をすればよいのか、問題となってしまいます。
この場合、立退きや未払いの賃料回収等を実現するためには、裁判所に対し、相続財産清算人の選任を申し立てる必要があります(民法952条1項)。
相続財産清算人とは、亡くなった賃借人(被相続人)に相続人がいない場合(あるいは相続人がいるかどうかが不明な場合)に、亡くなった賃借人のプラスの財産やマイナスの財産を整理し、これを清算するために様々な職務を遂行する人のことです。この相続財産清算人は、国や裁判所が自動的に選任してくれるわけではないので、他に選任の申し立てをしてくれる人がいなければ、賃貸人自らが申し立てなければならないということになります。この申し立てには、予納金などの費用の負担も必要となることがありますので、注意が必要です。
相続財産清算人が選任された後は、相続財産清算人との間で賃貸借契約を解約して立退きを実現したり、未払い賃料がある場合は同人が管理している亡くなった賃借人の財産から回収することになります。また、残置物の処分も相続財産清算人に行ってもらえるのが通常です。
4 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合における課題と成功のポイント
(1)事態を放置した場合、問題・損害が拡大してしまう
賃借人が行方不明になってしまった場合や、相続が開始した場合に、賃料の支払いがストップしてしまうことは多いですが、これを放置しておけば、賃料収入を長期間失うことになります。それだけではなく、賃貸借契約を解約し、きちんと立退きを実現しなければ、新たな賃借人を入居させることもできなくなってしまうのです。
また、残置物の放置によって、賃貸物件がダメージを負い、その後の賃料収入にも悪影響を及ぼすリスクもあります。当然、放置すればするほど、その影響は大きくなってしまいます。
賃貸人としては、賃料収入から固定資産税や修繕費等の支出を確保していますので、賃料収入が長期間ストップすること、新たな賃借人を入居させることができないこと、賃貸物件にダメージを生じさせること等は、迅速かつ適切に対処しなければならない、大きな問題です。
(2)交渉や裁判の決断が重要
そして、これらの問題を解決するためには、行方不明となった賃借人や、賃借人の相続人を調査し、迅速に交渉を開始し、交渉で問題を解決できない場合には訴訟を提起することで問題を解決することが重要となります。
つまり、交渉や裁判を行う迅速な決断が重要となるのです。交渉や裁判を行うにあたっては、立退きの実務に精通した弁護士に相談するのが良いでしょう。
5 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合に関するよくある質問
質問(1)
Q 賃借人が行方不明の場合や相続開始によって、長期間誰も住んでいない状況になってしまった場合、残置物の処分をしてもよいのでしょうか?
A 原則として、賃貸人の判断で処分することはできません。
賃貸人としては、できるだけ早く行方不明の賃借人あるいは賃借人の相続人に連絡し、残置物を処分してもらう必要があります。行方不明の賃借人や賃借人の相続人と連絡が取れなかったり、協力を得られなかったりする場合、裁判を提起し、勝訴判決をもって、強制執行を行うことで残置物の処分が可能となります。
質問(2)
Q 相続人と名乗る人が、建物内に立ち入りたいと申し出た場合、どのように対処したらいいでしょうか?
A 賃借人としては、まず、相続人と名乗る人が真に相続人であるか否かを確かめなければなりません。戸籍を提出してもらったり、相続人と名乗る者の免許証などの本人確認書類を確認して相続人本人であることを確認したりする必要があります。
さらに、仮に相続人であることが確認できたとしても、その他にも相続人がいる場合には、既に遺産分割が成立しているのか、成立しているとしてその内容(誰が賃借人としての地位を承継しているのか。)等を確認する必要があります。
相続人と名乗る人が立ち入りを希望した場合に、即座に上記のすべてを確認することは非常に困難です。そのため、どのような対応をすべきか、場合によっては、立退きの実務に精通した弁護士に相談・確認するのも良いでしょう。
6 賃借人の行方不明、相続開始(賃借人の死亡)の場合の立退きの方法のまとめ
本記事では、賃借人の行方不明、相続開始の場合に、立退きを実現する方法と成功のポイントについてご説明しました。
賃借人の行方不明、相続開始の場合に、状況を放置してしまうと、賃貸人にとっては、損害が拡大してしまいかねません。
当事務所は、立退きに関する紛争にとどまらず、相続に関する紛争も数多く取り扱っております。賃借人の行方不明、相続開始により、どのように対応したらよいかお困りの賃貸人オーナー様は、立退きに関する紛争や相続に関する紛争に精通した弁護士が多く在籍する当事務所まで御相談下さい。