2 貸し建物の立退きは法律問題である
古くからの貸し建物は、賃貸人と賃借人との間の賃貸借契約に基づくものがほとんどですので、以下では賃貸借契約の終了に基づく貸し建物の立退きを中心にご説明します。
貸し建物の立退きを請求する権利は、貸し建物の賃貸借契約の終了によって生じる法的権利です。賃貸借契約の終了に関する協議がまとまらず、合意による解約ができなかった場合には、強制的に賃貸借契約を終了させる必要があります。このことについては(1)賃貸借契約の債務不履行に基づく解除、(2)貸借契約の更新拒絶・解約申入れによる契約終了の順でご説明しますが(詳細は3 貸し建物の立退きができる場合と立退きの方法以降でご説明します。)、判断を誤ることなく、賃貸借契約を適切に終了させ、立退きを成功させるためには、立退きの実務に長けた弁護士のアドバイスの下、実行することが重要となります。
(1)賃貸借契約の債務不履行に基づく解除
債務不履行に基づく解除を行うと、賃貸借契約は、契約上の効力を、将来に向かって失うこととなります(民法620条)。そうすると、賃貸借契約は存在していないこととなりますので、賃借人は貸し建物を使用する権利を失うこととなり、貸し建物のオーナーは賃借人に対して、貸し建物の立退きを請求できることとなります。この場合は、貸し建物のオーナーは賃借人に対して立退料を支払う必要はありません。
賃借人の債務不履行とは、賃貸借契約に基づく賃借人の義務を賃借人が履行しないことを言います。例えば、賃借人は、オーナーの了解を得ずに、無断で別の人に転貸してはいけませんし、契約書の内容にしたがって毎月賃料を支払わなければなりません。そのため、賃借人による無断転貸や賃料不払いは賃借人の債務不履行となります。ただ、注意すべきことは、裁判実務において、「信頼関係を破壊する」ほどの債務不履行であったときに限って、債務不履行に基づく解除ができる、とされている点です。例えば、1ヶ月程度の賃料不払いでは、信頼関係を破壊するほどではなく、賃貸借契約の解除ができない、とされています。
貸し建物のオーナーが、賃貸借契約の債務不履行に基づく解除を行う場合、債務不履行として主張すべき具体的な事実を見落とすことなく主張し、信頼関係が破壊されていることも法的に正しく主張できなければ、本来はできたはずの債務不履行解除ができなくなる可能性もあります。そのため、債務不履行に基づく解除を行い、賃借人に対する立退きの請求を検討するときは、この方面に詳しい弁護士に相談するのが安全です。
(2)賃貸借契約の更新拒絶・解約申入れによる契約終了
ア 期間の定めがある賃貸借契約の場合
契約期間の定めがある賃貸借契約を終了させる場合、賃貸人は契約期間満了日の1年前から6か月前までの間に、「更新をしない」という通知(更新拒絶の通知)を賃借人に出す必要があります(借地借家法第26条1項)。更新拒絶の通知をしない場合は、従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなされてしまう(法定更新)ため、注意が必要です。法定更新の場合、期間の定めのない賃貸借契約として、契約が更新されることとなります。
なお、契約期間満了日の6か月前を過ぎている場合は、賃貸人は下記イと同様に「解約申入れ」の通知をすることとなります。
さらに、契約期間満了後に賃借人が建物の使用を継続しているときは、賃貸人は遅滞なく異議を述べることが必要です(借地借家法第26条2項)。仮に遅滞なく異議を述べなかった場合は、賃貸借契約は法定更新されることとなります。
イ 期間の定めがない賃貸借契約の場合
契約期間の定めのない賃貸借契約においては、賃貸人が賃借人に対して、「解約申入れ」をしてから6か月間が経過したときに契約が終了します(借地借家法27条1項)。この場合も、契約期間満了後に賃借人が建物の使用を継続しているときは、賃貸人は遅滞なく異議を述べることが必要です(借地借家法第26条2項)。
ウ 正当事由
更新拒絶や解約申入れによって賃貸借契約を終了させるためには、賃貸借契約を終了させることについて、「正当事由」が必要になります(借地借家法第28条)。
正当事由の有無は、①賃貸人、賃借人それぞれの、建物の使用を必要とする事情のほか、②建物の賃貸借に関する従前の経過、③建物の利用状況、④建物の現況に加えて、⑤立退料の支払金額も考慮して判断されます。裁判実務においては、特に立退料の支払金額が大きな争点となることが多いと言えます。
(3)まとめ
以上のように、貸し建物の立退きは法律問題であり、立退きの実務に長けた弁護士が関わらなければ、法律上の問題を見落としてしまったり、法律上の主張や立証の不足などにより、失敗してしまうリスクがあります。そのため、なるべく早い段階で、弁護士に相談し、そのようなリスクを回避しながら、貸し建物の立退きを着実に実行することが重要です。