1 貸し建物の立退きの意義
築年数の古い貸し建物は、長年建物を賃借している賃借人に対する厚意や、入居者確保のため、または単純に賃料の増額を怠っていたことなど様々な理由により、長年に渡って賃料が据え置かれていることがあります。
さらに、都市やその周辺部にある土地では、据え置かれた貸し建物の低額の賃料収入と比べて、固定資産税、都市計画税、相続税等の負担が重くなっており、貸し建物が所在する土地の価値に見合った有効活用ができていないことも多々あります。
このような事情を背景に、築年数の古い貸し建物の賃貸人は、貸し建物を建て替えることで、土地の有効活用を図ったり、貸し建物を空室にして、土地を適切な金額で売却する必要に迫られています。
(1)貸し建物の建つ土地の有効活用
老朽化した貸し建物は、築年数に伴って生じる損耗や不具合に対応するために多くの修繕費や維持管理費が必要となりますが、それにもかかわらず、相場より低額の賃料でなければ賃借人を確保することが困難な場合が多くなります。また、老朽化した建物が損壊、倒壊して、人をケガさせてしまったり、人の物を壊してしまったりすると、建物の所有者が損害賠償責任を負うこともあります。
そこで、老朽化した貸し建物のオーナーとしては、現在の賃借人から建物の立退きを受け、老朽化した建物を取り壊して新たな建物を建てることにより、土地の収益性を向上させ、土地を有効活用することは非常に重要です。
(2)貸し建物の建つ土地の売却
時として、不動産の相続は、相続人の争いの種となることがあります。そのため、将来自分が亡くなった後の遺産分割において相続人が揉めるのを防ぎたいというお考えから、今のうちに貸し建物の建つ土地の売却を検討される方もいらっしゃることかと思います。
また、相続発生後、老朽化した貸し建物を土地と一緒に売却し、売却代金を相続税の支払いにあてたい場合があります。買換え(相続により取得した財産を一定期間内に譲渡した場合に、相続税額のうち一定金額を譲渡資産の取得費に加算することができる制度)により譲渡所得税の負担を減らしたい場合も、相続した貸し建物の建つ土地の売却を検討する必要があるでしょう。
さらに、遺産相続において、貸し建物とその土地以外に見るべき遺産がなければ、土地建物を売却し、相続人間で代金を分ける方法をとることがありますが、この場合も貸し建物の建つ土地の売却が検討されると思われます。
このように、貸し建物の建つ土地を売却する場合、貸し建物の賃借人がいる状態で売却するよりも、貸し建物の賃借人から立退きを受けて、貸し建物を空室にしたうえで売却することによって、より高額な代金で売却できることが通常です。
(3)立退料について
貸し建物の立退きを受けるために、賃借人に立退料を支払う必要があることが多く(詳細は3 貸し建物の立退きができる場合と立退きの方法以降でご説明します。)、このことに御不満な貸し建物のオーナーもおられると思います。
もっとも、結果として土地の有効活用により収益性を向上させたり、貸し建物の建つ土地を高額で売却したりすることが可能となるため、立退料を支払ってでも、貸し建物の賃借人から立退きを受けることによって、大きな経済的利益を得ることが見込まれます。